○ 胎児は羊水に包まれて発育しますので、羊水中には胎児の細胞が含まれています。この羊水を採取することにより、胎児の染色体や遺伝子を調べることができます。これが羊水検査で、当院では通常妊娠16~17週で行っています。当院では「日帰りの入院」となり、検査後に特に異常が無い限りは、一時間程度で帰宅できます。
○ ここでは、この羊水検査について詳しくご説明します。
○ 羊水を採取することにより、羊水中に含まれている胎児の細胞を調べ、胎児に染色体の変化(染色体異常)があるかどうかを調べるための確定診断検査として実施されるのが通常の羊水検査です。染色体異常だけではなくて、特定の遺伝性疾患の有無を調べる目的で遺伝子変異や酵素の変化を調べる事もあります。
○ 染色体異常(数の異常、構造の異常)
◆ 数の異常 ・・・ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー、
ターナー症候群、クラインフェルター症候群など
◆ 構造の異常・・・転座、欠失など
○ 開放性神経管奇形(開放性二分脊椎や無脳症など)
羊水の一部を用いて、AFP(α‐フェトプロテイン)という胎児由来のたんぱく質の量を測定することにより、開放性神経管奇形の確率の上昇の有無を調べます。
○ 家系内の特定の遺伝性疾患があったり、超音波検査で特定の疾患が疑われる場合はは、その疾患の遺伝子変異や酵素の変化などを調べる事もあります。
○ まず超音波検査(エコー)で胎児の状態を確認
します。具体的には胎児の心拍動や発育、羊水量
が正常で胎盤の位置が穿刺の妨げにならないこと
を確認します。
○ 次に妊婦さんのおなかを消毒した後、清潔な布で
覆い、右図のようにエコーで見ながら、妊婦さん
のお臍の下あたりに細い針(穿刺針) を刺して、
羊水(約20ml)を採取します。当院では麻酔は
しておりませんが、痛みを訴えられる方は少数で
、思っていたよりも痛みはなかった、採血よりも
痛くないと言われる方が多いです。
この手技を羊水穿刺といいます。
○ 羊水穿刺は通常1回のみですが非常に羊水が採取
しにくい場合には、2~3回の穿刺を行う場合も
あります。
○ 穿刺している時間は、ほんの15~20秒くらいです。羊水が採取できましたら消毒
して、絆創膏を貼ります。
○ 再度エコーで胎児の状態に異常がないことを確認して、その後、約30分間の安静を
保ちます。そして再びエコーを行って、異常がなければ帰宅していただけます。
○ 検査開始から終了までは約1時間くらいです。
○ 羊水検査後、帰宅時に感染予防の抗生物質と子宮の収縮抑制のための薬が処方されます
ので、3日間必ず内服してください。
※ペニシリン系やセフェム系の抗生物質にアレルギーのある方は種類を変更しますので、
医師にお伝えください。
○ 翌日はお仕事は休んで自宅でゆっくり過ごしてください。(横になっている必要はありません)
○ 羊水検査は健康保険の適応がありませんので、全額自費となります。
※具体的な費用については、費用の項目をご覧ください。
○ 羊水検査後、まず採取した羊水中に含まれている胎児の細胞を増やすために、約2週間培養(細胞を増やす)します。その後、特殊な処理(染色)を行うことにより顕微鏡下で染色体が見えるようになります。
○ このように判定・判断に時間を要しますので、羊水を採取してから検査結果がでるまで、約4週間かかります。
○ 結果説明は検査日の3週間後の週の金曜日の午後に外来で行います。
※ 詳しい日時は羊水検査終了後に担当医より指定されます。
○ 羊水検査後に胎児が流産する可能性が約0.1~0.3%(1000人中1~3人)程度あります。
しかし、この時期にも自然流産する場合があり、これらの方は羊水検査を受けなく
ても流産をしたのかもしれません。流産の原因はわからないことが多く、この確率は自
然流産が起こる確率と比較して、 それほど高い数値ではありません。よって、この検
査は非常に危険な検査というわけではありませんが、100%安全な検査というわけでは
ありません。
○ 約1.5%(1000人中15人)くらいの確率で、羊水を採取できてもその中の胎児細胞が
2週間経っても増えてこない場合があります。この場合には染色体が見えず、診断不能
となります。2週間経った時点でこのような状態の場合は、こちらからご連絡します
ので、ご希望があってしかも週数に余裕があれば、再度羊水穿刺を行うことは可能です。
その場合の具体的な費用は、費用の項目をご覧下さい。。
○ 穿刺後に出血や破水、下腹痛が生じることがあります。こうした場合にはそのまま入院が
必要になることもあります。このようなことが100名に1名程度あります。
○ 染色体検査は専門の医師や技師が目で見て診断をしており、ダウン症やその他の染色体
異常でも、染色体の数が増えたり減ったりする数の異常に関しては、まず診断は正確に
行なえますが、染色体の構造の異常に関してはわからない場合があります。
もちろん目で見てわかるような大きな構造の異常があれば指摘できますが、目で見ても
わからないような非常に細かい異常については発見できません。
特に羊水を用いた染色体検査では、大人の血液を用いた染色体検査に比べ細かいところ
が分かりにくいのです。
○ 稀なことですが、一人の胎児が正常と
異常の両方の染色体をもっている場合
があります。つまり、体の一部は正常
な染色体を持った細胞、一部は染色体
に異常を持った細胞という場合です。
このような状態を「染色体モザイク」
と呼び、検査の時に正常の細胞と異常
の細胞の両方が見つかれば、モザイク
の診断が可能です。
しかし正常細胞ばかり増えてくる場合、もしくは両方の細胞が増えても、正常細胞しか検出
されなかった場合は、生まれて初めて正常と異常の両方を持った染色体モザイクの赤ちゃん
であるということが判明する場合があります。このような場合には羊水検査で正常であって
も、生まれてみたら染色体異常がみつかるということがありえます。
○ 染色体モザイクには、真性モザイクと偽性モザイクがあります。真性モザイクは本当に胎児が染
色体異常と正常の細胞の両方を持っている場合です。この場合には異常の染色体を持つ細胞の割合
により、胎児が病気を持つ可能性があります。偽性モザイクは、羊水を採取した後で、細胞を培養
といって、フラスコの中で増やすのですが、その過程で生じるもので、胎児には異常はありませ
ん。
真性モザイクが偽性モザイクかは診断が困難な場合もあり、つづけて再度の羊水検査(再穿刺)が
必要になることもあります。また、再穿刺を行っても診断がはっきりしないこともあります。
○ 穿刺する際の針は、まず妊婦さんの皮膚と子宮の壁を通過してから羊水に達します。
従って、この時に針のなかに妊婦さんの細胞が入り込んでしまうことがあります。
現在は針が非常に細くなっているため、このようなことはめったに起こることではありません
が絶対にないとは言い切れないのです。
○ 染色体の形は人間の顔つきと同じでそれぞれ個性があります。異常を起こすことはないが、
通常はあまりみつからない形を“正常異型”と呼び、こうした染色体が羊水検査でみつかる
ことがあります。その場合にこれが“正常異型”なのか“異常”なのか判断がつかないこと
があります。この場合にはご夫婦の染色体検査が必要になってきます。
例えば羊水検査でみつかった、判断のつかない染色体の変化を、ご夫婦のいずれかがお持ち
であれば、ご夫婦はともに正常なわけですから、胎児も正常と考えて良いと考えられます。
つまり“正常異型”で個性の範囲ということです。逆に、ご夫婦ともにその染色体の変化を
お持ちでなければ、これは妊娠の段階で起こったことと考え、“異常”の可能性が考えられ
ます。
○ 結果判定は「染色体異常」と「開放性神経管奇形」についてのみ行ったものですから、それ
以外の胎児の奇形や病気、妊婦さんの妊娠中の合併症などを予測することはできません。
従って検査結果が正常であっても健常な赤ちゃんが必ず生まれるという保証はありません。
そもそも生まれてきた赤ちゃんの異常を妊娠中にすべて見つけることは不可能なのです。
○ ふたごなどの多胎妊娠の場合には、すべての胎児の羊水が採取できなかったり、できても別の胎児の羊水が混じっていたりして、診断が不正確になることがあります。そのため、最初に採取した胎児の羊水中に色のついた液(インジゴ色素液)を添加しておき、次の胎児の羊水と区別できるような方法をとっています。それでも2児のそれぞれの羊水を採取できなかったり、胎児を隔てる羊膜を通じて羊水の交流があったりし、やはり絶対確実に各胎児羊水のみを採取できるとはいえません。
○ 妊婦さんがウイルス肝炎の保因者であったり、血液型がRh陰性であったりした場合には、
羊水検査時に問題が生じることがあります。ウイルス肝炎の保因者の妊婦さんの場合、
穿刺時に母体の血液がわずかに羊水に混じる可能性があり、その際に肝炎ウイルスが胎児
に感染する可能性が完全には否定できません。ただ当院では、これまでに明らかに羊水検査
で感染した例は経験していません。
またRh陰性妊婦さんの場合には、もし胎児がRh陽性であった場合に、胎児血が母体血
に混じることがあると、妊娠中後期に胎児の溶血を引き起す可能性があります。この場合
には、あらかじめ母体血中のクームス検査を行って、羊水検査時点で胎児血の溶血傾向が
ないことを確認します。そして検査終了直後に予防のため、抗Dグロブリンを妊婦さんに
投与します。
こうした治療を受けておられる場合は、羊水検査のあとで出血が止まりにくくなる可能性があります。そのため、次のような予定でアスピリン内服やヘパリン注射を一時中断していただく必要があります。ただ、その場合には中断したことで流産してしまう可能性がありますので、これらの薬剤を投与されている場合には主治医の先生と良くご相談の上、決めて下さい。
それ以前 前々日 前日 羊水検査当日 翌日 翌々日 それ以降
アスピリン ◯ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ◯
ヘパリン ◯ ◯ ☓ ☓ ☓ ◯ ◯
アスピリンは検査当日を含めて5日間、ヘパリンは3日間の中断が必要です。